イヌクティトゥット語と音節文字(Inuktitut and syllabics)
イヌクティトゥット語は、イヌイットの言語(イヌクトゥット、Inuktut)のひとつで、ヌナブト準州では英語・フランス語と並ぶ公用語です。音節文字と呼ばれる独自の文字で書かれることが多く、その成り立ちと、イヌイットの団体が進める共通の書き方をまとめます。
イヌクトゥットとイヌクティトゥット語
イヌイットの言語は、まとめて「イヌクトゥット(Inuktut)」と呼ばれます。イヌイットの全国団体であるイヌイット・タピリート・カナタミ(Inuit Tapiriit Kanatami、ITK)は、イヌクトゥットを、イヌイットの土地「イヌイット・ヌナンガット(Inuit Nunangat)」で話されるすべての方言をまとめた呼び名だと説明しています。ITK の理事会がこの呼び名を正式に認めたのは2016年です。
ITK の書き方のガイド(新しいタブで開く)は、地域ごとの主な方言を次のように示しています。
| 地域 | 主な方言 |
|---|---|
| イヌヴィアルイト居住地域(ノースウエスト準州) | イヌヴィアルクトゥン語(Inuvialuktun) |
| ヌナブト準州 | イヌインナクトゥン語(Inuinnaqtun)、イヌクティトゥット語(Inuktitut) |
| ヌナヴィク(ケベック州北部) | イヌクティトゥット語 |
| ヌナツィアヴト(ラブラドール北部) | イヌッティトゥット語(Inuttitut) |
ITK によると、イヌイット・ヌナンガットはこの4つの地域の51のコミュニティからなり、カナダの陸地の40%を占めます。話者の数など、先住民の言語の全体は先住民の言語で扱います。
ヌナブト準州の公用語
ヌナブト準州(Nunavut)では、イヌクトゥットが英語・フランス語と並ぶ公用語です。ヌナブト準州の言語コミッショナー事務所(Office of the Languages Commissioner of Nunavut)の言語の権利の説明(新しいタブで開く)によると、公用語は次の3つです。
- イヌクトゥット(イヌクティトゥット語とイヌインナクトゥン語)
- 英語
- フランス語
同じページによると、イヌクティトゥット語はキキクターアルク(Qikiqtaaluk、バフィン)地域とキヴァリク(Kivalliq)地域で多く話され、日々の暮らしの主な言語です。イヌインナクトゥン語は、主にキティクミオット(Kitikmeot)地域のクグルクトゥクやケンブリッジ・ベイで話されています。
準州には、言語について2つの法律があります(言語コミッショナー事務所の法律の説明(新しいタブで開く))。
| 法律 | 内容 |
|---|---|
| 公用語法(Official Languages Act) | 準州政府、議会、裁判所、市町村と、3つの公用語のどれでもやりとりし、サービスを受けられる権利を定める |
| イヌクトゥット保護法(Inuktut Protection Act) | 仕事、教育、公共サービスなど暮らしのあらゆる場面で、イヌクトゥットを生きた言語として守り、広め、育てる |
準州政府の言語政策
ヌナブト準州政府の文化・遺産省(Department of Culture and Heritage)には、公用語を担当する部署(Official Languages)があります。準州政府の公用語のページ(新しいタブで開く)によると、この部署は次のような仕事をしています。
- 準州政府のすべての省と機関が、公用語で住民にサービスを出せるよう支える。
- イヌイットの言語を、準州政府の仕事の言語(working language)にする取り組みを支える。
- キティクミオット地域のクグルクトゥクとイグルーリクにある翻訳局(Translation Bureau)を通じて、政府の翻訳を担う。
- 若い人や、言葉が失われつつあるコミュニティでのイヌクトゥットの再活性化、フランス語の振興を進める。地域の団体向けの補助金もある。
同じページは、イヌクトゥットという言葉が、ヌナブト準州で使われるすべての方言を含む呼び名だと説明しています。準州の言語の法律は、イヌイットがイヌクトゥットをほかの公用語と完全に対等に使う権利を持つことを定めている、としています。
準州の成り立ちはヌナブト準州の成り立ち、暮らしの情報はヌナブト準州にまとめています。
音節文字の成り立ち
イヌクティトゥット語は、「音節文字(syllabics)」と呼ばれる文字で書かれることが多い言語です。ITK のガイドによると、イヌクトゥットは、文字が使われるようになる前から、何千年も北極圏で話されてきました。いま使われている文字の多くは、ヨーロッパの宣教師がキリスト教を広めるために持ち込んだものです。イヌイットは、その文字を自分たちに合わせて変え、いまも改良を続けています。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1790年代 | ラブラドールで、モラヴィア派の宣教師が作ったローマ字の書き方で、イヌッティトゥット語の読み書きが学校で教えられ始める |
| 1850年代 | 宣教師ジョン・ホーデンとエドウィン・ワトキンスが、クリー語の音節文字をもとに、ジェームズ湾地域でイヌクティトゥット語を書く文字を作る |
| 1870〜1890年代 | 宣教師エドマンド・ペックが、ヌナヴィクとヌナブトのキキクターアルク地域で、音節文字の聖書の翻訳を出す。この地域のイヌイットに音節文字が広まる |
| 1800年代後半 | 西部の北極圏で、イヌヴィアルクトゥン語とイヌインナクトゥン語にローマ字の書き方が持ち込まれる |
| 1976年 | イヌイット文化研究所(ICI)の、音節文字とローマ字の両方の標準の書き方ができる |
| 2010年 | ヌナブト準州が、イヌクトゥットの用語とつづりを標準化する言語機関を置く |
このように、音節文字が広まった地域と、ローマ字が持ち込まれた地域があります。言語コミッショナー事務所は、イヌインナクトゥン語はイヌクティトゥット語と違ってラテン文字(ローマ字)を使うと説明しています。
共通の書き方「イヌクトゥット・カリウヤーパイト」
方言と地域によって書き方が違うため、ITK は2011年から、共通の書き方づくりに取り組みました。ITK のページ(新しいタブで開く)によると、2019年に ITK は「イヌクトゥット・カリウヤーパイト(Inuktut Qaliujaaqpait)」を正式に採用しました。
- どの方言の話し言葉も書き表せる、共通の記号のセットです。
- イヌイット・ヌナンガットのすべての地域ですでに使われているローマ字がもとになっていて、特別なキーボードや文字がなくても入力できます。
- 長老や教師などの意見を聞きながら、イヌクトゥットの専門家が8年をかけて作りました。
- いまの地域ごとの書き方をなくすものではなく、それと並べて使う補助の書き方です。
ここに注意してね!
- ヌナブト準州では、イヌクトゥットが英語・フランス語と並ぶ公用語です。準州の機関や市町村とは、3つの公用語のどれでもやりとりできます。
- 「イヌクティトゥット語」はイヌイットの言語のひとつの方言の名前で、イヌイットの言語全体は「イヌクトゥット」と呼ばれます。地域によって言葉も文字も違います。
- 「エスキモー」という呼び方は使わず、「イヌイット」と呼びます。呼び方の注意は呼び方と用語の注意にまとめています。
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